児童虐待『3歳児の能力遅れ』

ニュースでも取り扱われた、虐待による能力遅れ。この深刻さをみなさんご存知でしょうか?

虐待とは
虐待と聞くと"暴力"を振るわれるイメージがあると思いますが、「身体的虐待」「心理的虐待(ネグレクト)」「性的虐待」「経済的虐待」「育児や世話の放棄・放任」と虐待にも様々な種類があります。

愛着形成
乳幼児〜幼児期は子と母の愛着形成を行う"最も"大切な期間。育児において"愛着"とはの情緒的な結びつきを指し、乳幼児期に両親との愛着がきちんと形成されているかどうかで、人生に大きく影響すると考えられている。日本と比べ米国では特に重要視されており、生まれてまもない子をすぐに母親に抱かせ素肌同士の"アタッチメント"を必ず行う、そした完全母乳で育てること・本人の意思で離れるまで授乳させてあげることを推進している。この推進を行った研究結果、きちんと愛着形成を行った子供と愛着形成がおこなわれてない子の非行に走る率が「圧倒的にきちんと愛着形成を行った子の方が少ない」。また本人が自ら離れていくまで授乳は行うべきだとし、小学校入学後の授乳も本人が欲しがるのであれば行うべきだと訴える学者がいる。6歳以降も授乳を行った子供の知能が、同い年の子と比べ圧倒的に高いことが判明し以前より更に推進されているのだ。 

小児・母子医療において、コミュニケーションやアタッチメントは特に重要視されている。 


重要視されるようになった研究
医療従事者は皆フリードリヒ二世が行った研究を知っているだろう。それは愛着形成がいかに重要なものなのか、そしてショッキングな内容であるからだ。研究論文は以下の通りである。フリードリヒ二世は数人の捨て子の新生児を部屋に隔離し2つのグループに分けた。ひとつのグループは話しかけ、抱き母乳を飲ませことも、入浴や排泄のケアを行ってもよい、アタッチメントやコミュニケーションを行い愛情を与える。そしてもひとつのグループは乳幼児の目を見ない 、笑いかけない、語りかけない 、ふれあいを一切行わないミルクはしっかり与え、入浴や排泄のケアさきちんと行う。つまりどんな方法でも機嫌をとったり、一切話しかけてはいけない"愛情表現・言語交換の剥奪"を命じた研究だ。

本来の目的は、子供が生まれつき話すのはヘブライ語かギリシャ語、あるいはラテン語か、生みの親の話すドイツ語なのかを確かめることであった。しかし学問好きのフリードリッヒ2世のこの残酷な実験の目的は果たされないまま幕を閉じる。

"愛情表現・言語交換の剥奪"を行ったグループの乳幼児はどの言語を話す間も無く、全員が1歳の誕生日を迎えることなく死亡してしまったからである。


この研究は、50人の乳幼児が死亡したとして残酷だと多くの批判があった。また心理学者のルネ・スピッツも同様の実験を行った。戦争孤児になった乳児55人に人間的スキンシップを一切行わない実験を実施。

その結果、27人が2年以内に死亡、残った子どもも17人が成人前に死亡し11人は成人後も生き続けた。しかしその多くは知的障害や情調障害の症状が認められた。


この実験により、乳幼児にとってアタッチメントやスキンシップが『欠かせないもの』と証明された。乳幼児が"泣く"という行為は言葉の話せない子どもの唯一の自己表現であり、コミュニケーション方法である。これを無視すると情緒に大きな影響を与えるだけでなく、生命の危機にさらされる可能性が非常に大きい。

脳の萎縮
上記の研究だけでなく虐待による脳の萎縮は実際に認められている。熊本大大学院医学薬学研究部の友田明美准教授(小児発達社会学)が米ハーバード大医学部との共同研究でMRI解析を行い発表された。それは幼少期の長期に渡る虐待を受けた人は、受けていない人より脳の前頭葉の一部が最大で約19%縮んでいたという研究結果だ。

・身体的虐待

これは誰もが虐待と聞いてイメージする暴力などによる虐待を指す。身体的虐待を受けた子供は大きなストレスや恐怖を感じ、前頭葉が萎縮する。前頭葉の働きは、思考、自発性、感情、性格、理性などのコントロールを行っている。そのため前頭葉が萎縮した子供は感情のコントロールが下手、理性が働きにくく暴力的であったり物事に関心、やる気を示せなくなる症状が見られる。

・ネグレクト

親が育児放棄を行うと愛情を感じられず側頭葉内側の扁桃体が萎縮が認められる。扁桃体は怒り、恐れ、喜び、悲しみなど喜怒哀楽の情動的な出来事に関連付けた記憶形成と貯蔵を行う記憶力や学習能力の役割を担う。そのため扁桃体が萎縮した子供は情緒不安定になる。

・性的虐待

性的虐待、身近な親類の性的虐待を見ることで、後頭葉にある視覚野が萎縮する。
視覚野は、視覚対象の姿を認識、形状の表象や長期記憶として留めておく働きを行う。そのため視覚野が萎縮した場合、相手の認識が薄れ、長期記憶に残せない症状が認められる。

・心理的虐待

言葉の暴力を受け精神的に虐待されたり、身近な人に対する暴力を見ると側頭葉の上側頭回、横側頭回にある聴覚野が萎縮する。聴覚野は、音による聴覚情報、言語情報の処理を担う領域である。そのため聴覚野が萎縮した場合、聴覚や言語の発達に障害が起こりやすくなる。

ニュースでも大きく取り上げられているように虐待はその子供の今後の可能性を潰してしまうのだ。


現実
厚生労働省によると平成24年度の相談対応件数は、平成11年の児童虐待防止法施行前の5.7倍の66,701件と増加。虐待が原因による死因は高い水準で推移し深刻な一途を辿っている。平成24年度、児童相談所における児童虐待相談対応件数のなかで虐待の中でも最も被害が多いのは、身体的虐待被害(35.5%)、ついでネグレクト(28.9%)と報告されている。しかし、この二つとは対照的に性的虐待の報告は全体の3%、心理的虐待は全体の19%とかなりの低い割合であった。報告件数が少ない理由として、性的・心理的虐待は、身体的虐待のような目に見えて判断を行えず、あざや傷が残らず、周囲が気付きにくく判断ができない為、"発見されにくい"という問題があるからだ。心理的虐待は、怒鳴り声や叫び声を耳にした近所の人からの通報で発覚することも稀にある。しかし、性的虐待は被害者の子どもが性的行為の意味が理解出来ず言葉でも表現できないため表面化しにくく発見が行えない。身体的虐待を受けた子供が保護された後、性的虐待を受けていたことを打ち明けたり、「妊娠したかもしれない」と子どもが産婦人科を診療しようやく性的虐待の事実が発覚、表面化するのだ。

大人の義務

児童福祉法第25条、児童虐待の防止等に関する法律第6条により『子供の虐待の早期発見と通告の義務』が定められている。


児童虐待を受けたと思われる子供を発見した際、全ての人が市町村や児童相談所などの関係機関に通告しなければなりません。

"児童虐待を受けている子供"ではなく、"児童虐待を受けている可能性がある子供"がいれば通告しなければならない。虐待被害をうけているという事実の確証がなくても通告しなければならないのだ。


また学校・児童福祉施設・病院など児童虐待を発見しやすい立場に従事している者、団体は児童虐待の防止等に関する法律第5条において積極的な児童虐待の早期発見及び通告が義務付けられている。


最後に
私たち大人が子供の小さなサインを見逃さなければ発見が遅れることはないのだ。

あなたは周りの子供に少しでも違和感を感じたことはありませんか?


・不自然な打撲や傷をみつけたことはないですか?

子供の頃は様々な遊びを行い注意力が足らない為怪我をしやすく判断基準は難しい。しかし、遊んでいるうちについた傷ではなく、故意的につけられた不自然な怪我を見たことはないですか?日常生活を送っていて衣服を身につけていればできるはずのない場所に傷や火傷の跡があるなど。不自然な傷や打撲が複数見られたり、頻繁に傷や打撲ができてませんか?

・不自然な言い訳

これは虐待被害をうけている子供だけじゃなく、加害者にも見られる為わかりやすい。医療従事者が子供の傷や打撲ができた原因について尋ねると、傷や打撲の状態と一致しない説明を行ったり、話しが次から次へと変わっていくのだ。被害者の子供も、虐待を訴えたい感情と訴えることへの不安感、そして加害者が親や家族だった場合やはり自分の親族のことを悪く言えないなどの罪悪感等、様々な心情が混在し、発言が変わったり、どうしても説明する際に辻褄が合わず不自然さがある。子供や親の発見をよく注意して耳を傾けてみて下さい。

・違和感のある表情

子供なのに表情が乏しく無表情であったり、大人の顔色を伺う様子が見られてませんか?ちょっとしたことでビクビク怯えた様子があったり、落ち着きがなく周囲をキョロキョロと見渡し、周りを伺う表情をします。これも虐待の判断基準の一つにして下さい。

・おかしな行動や関係性

親御さんや親族が目の前に来た途端、急にそわそわしたり怯えた様子が見られませんか?
また初対面の人に対し妙に馴れ馴れしく距離感が近かったり、年齢と合わない言動をする場合があります。また加害者側も、口では子供のことを心配したり大切にしているような表出をします。しかし、実際は子供に対し興味がなく、育児を放棄します。いつも同じ服ばかり着ている子供、髪がボサボサだったり、長い間お風呂に入っている形跡がない、季節感のない服をきていませんか?子供一人で自宅で留守番している家庭はありませんか?

少しでも心当たりがあれば、市町村または児童相談所にすぐに連絡しましょう。

虐待されている"かも"しれないと少しでも感じたら必ず通告しましょう。


それは私たち大人たちができる最低限の行いと義務です。子供たちは私たち大人と異なりあらゆる可能性を持っています。私たち人間は『生命の尊厳』があります。それをどんな形であれ奪われてしまうのは罪です。親や家族でさえ、それらを侵害することは許されません。

東京・目黒区で5歳の女の子が暴行を受けた後に死亡し、父親が逮捕された事件がありましたね。児童相談所が虐待を疑う通報を受けたにも関わらず、保護措置など適切な対応を行っていませんでした。本当は回避し保護することができた事件であり、起こってしまったことがおかしな事件なのだ。児童虐待の報告や相談が年々増加しているからこそ、今すぐにでも児童相談所や行政機関は窓口と保護施設などサポートシステムを整え強化し、社会問題として大きく取り上げるべきだと考えます。国民一人ひとりが意識を持ち行動を起こしていくことで変えていける体制や、助かる命がある。大人としてどういう意識を持ち、どう対処していくべきなのかしっかり考えてみて下さい。

そして、虐待被害を見つけた時大人として一人の人間としてどうすべきか。あなたの行動が目の前の命と周りを変えます。


子供は自分で助けを求めることができない弱い立場にあります。私たちが助けないでだれが助けることができるのでしょうか。